研究期間:1997年4月〜1998年3月 |
電気生理学、行動生理学、形態学、分子生物学の各方面から、性ホルモンや視床下部ペプチドが神経細胞や下垂体細胞に及ぼす作用を研究している。現在用いている手法は、(1) 電気生理学では細胞内イオンイメージング法による細胞内カルシウム濃度及びナトリウム濃度の動態の解析とパッチクランプ法による膜電位・膜電流の解析、(2) 行動生理学では、ビデオ撮影による記録と並行して、ニューロン活動を電気的、またはFOSタンパク発現により評価し、雌雄ラットの性行動の中枢機序を調べている。また、アンチセンス法により、性行動へのGnRHの関与を調べている。(3) 形態学的には、GnRHニューロンやエストロゲン受容体陽性ニューロンの個体発生を、免疫組織科学やin situ hybridization 法により検討し、性ホルモン環境などの影響を調べる研究が進行している。(4) 分子生物学的な手法では、エストロゲン受容体ゲノムDNAに存在する折れ曲がり構造などを調べた。これまでに、学内では小児科、泌尿器科、整形外科、産婦人科、第三内科などと、大学院生の交流を通じて共同研究を行ってきた。学外では公的助成を得て、ロックフェラー大学、生理学研究所、東京大学、東京都神経科学総合研究所などと、提携が進んでいる。本年度の業績にはわれわれが編集した"GnRH Neurons: Gene and Behavior" を含め著書2冊、欧文論文15編、国外学会9と国内学会21の演題発表を数えており、さまざまな手法で研究を進めている各グループとも本格的な成果の発表が始まった。現在既に受理されている論文を含め、明年度にはさらに多くの論文の一流誌への掲載を報告できると考えている。
大学単位の研究業績の取りまとめと公表は自己点検・自己評価が言挙げされる近年でこそ, 当たり前のことと考えられるようになったが, これまで余り一般的であったとはいえない. この研究業績年報で第44巻を数えることとなることに端的に示されるように, 本学では長年にわたり研究業績を広く公開してきた. 本業績集は情報公開という視点からの本学の先進性を示すばかりでなく, 内容的にも毎年着実に充実し, 英文論文や国際学会における講演が相当数を占めるようになったことで, 本学の実績を外部に対してアピールする重要な役割を担うものである. 最近, 自己点検の一部として研究業績をようやく発表するようになった地学に比べれて誇るに足る実績といえよう. もとより研究の活性は学会発表や論文の件数だけで評価されるものではなく, インパクトの大きな独創的な研究が生命観の見直しや高度の医療の実践に応用されてこそ, 大学の評価につながる. また, 活発な研究活動が教育に反映されることで, 次代の研究者, 先端的な医療従事者の養成が実現するわけで, 数量化が容易な短期のデータだけに依存して, 自己満足に陥ってはならない. この点では本業績集は1993年度以来公刊されている自己点検報告書を補完するものであって, 併せて活用されることを期待する.
平成10年12月研究委員会委員長
佐久間康夫