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書評
比較内分泌学会ニュース No. 88 February 1998

"GnRH Neurons: Gene to Behavior"
Edited by Ishwar S Parhar and Yasuo Sakuma, Brain Shuppan, Tokyo, \19,000, 486pp.

前田 敬一郎 (名古屋大・農)

Gonadotropin-releasing hormone、GnRHはアメリカのSchallyおよびGulleminらが各々率いる2つのグループによって、それぞれブタおよびヒツジの視床下部から単離され、構造決定されたペプチドである。SchallyおよびGulleminはこのペプチドを含む視床下部ホルモンの発見により、1977年のノーベル医学生理学賞を受けたことでも有名である。下垂体前葉からの黄体形成ホルモンの放出促進作用を指標として単離されたため、当初は黄体形成ホルモン放出ホルモン、LHRHと呼ばれたが、その後の研究により、脊椎動物全般に発見され、種を超えて生殖を中心とする生理現象に関与することが明らかとなってきたため、現在ではGnRHと呼び慣わすようになった。GnRH発見以来、そのペプチド研究の第2のブレークスルーとなったのが、Schwanzel-FukudaらによるGnRHニューロンの発生に関する研究である。哺乳類・鳥類ではGnRHニューロンが胎生期に嗅板に発生し、長い旅の果てに脳の特定の領域に落ちつくことの発見は、おおきな衝撃であった。さらに、その後の詳細な研究により、GnRHニューロン系は、終神経と視索前野、中脳の3つの系に分類されるに至った。本書は、永年生殖現象の解明にたずさわってきたParhar、佐久間の両博士により編まれたGnRH全書ともいうべきまとめの書で、全編にわたって比較生物学的観点がつらぬかれている。GnRHは脊椎動物の祖先ともいうべき原案動物であるホヤに至るまでその構造がよく保存されたペプチドで、どの動物種においても広く脳全体に分布しており、


さまざまな生理作用が発見されている。したがって、比較生物学的観点からGnRHをながめてみることは、このペプチドの本質を見極める上できわめて重要で、永年GnRHというペプチドの研究にたずさわってきた編者らの哲学をうかがい知ることができる。この比較生物学的観点を横糸とすれば、縦糸は本書の副題でもある「分子から行動へ」という観点である。この編集方針にしたがって稿を寄せた執筆陣は、GnRHニューロン系の数々の発見にたずさわりいまなお世界の第一線で活躍する著名なGnRH研究者たちである。本書の4つのPARTは基本的にこの縦糸にしたがって構成されている。PART IのGnRH分子と受容体に始まり、PART IIのGnRHニューロンの発生とその分布、PART IIIでは生理学・行動学を中心としたGnRHニューロンの機能、PART IVの臨床的観点に終わる。これら各PARTは横糸である比較生物学的観点にしたがって構成されており、読み進むうちに読者は各PARTの中で自然とその横糸に沿ってGnRHニューロンの進化に思いを巡らせることになる。価格は19,000円といささか高価であるが、GnRH全書としての役割を考えればお得な買い物であろうか。各Chapterには、詳細な文献リストが添えられており、これからGnRHニューロンについて調べものをしようとする学生や研究者にも便利である。欲を言えば、全書としての価値をあげるべく、よいIndexがあれば、辞書的な使い方ができたであろうにというべきか。いずれにせよ、良質の写真とスキムに富んだずっしりと重厚な好著である。
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